『「親の愛情をいままで感じたことがない、誰からも愛されない、自分は異常で世の中で無意味な人間、魔物なのだ…」 酒鬼薔薇聖斗の性的サディズムは本当に克服されたのか!?』
日本中を震撼させた神戸児童連続殺傷事件。中学3年生によるあまりに凶悪な犯行がクローズアップされたが、「少年A」がなぜこの事件を起こしたのかは分からないままだった。この本は矯正の様子を追うことで少年がどんな人間だったのか、に迫っていく。
脳の性中枢が未発達。詳しいことは分からないが、医学的問題だったのだろう。自分の“異常”に気付いた少年は、自分をコントロールできず犯行に及んでしまう。
事件からあまり経っていない頃、神戸に行った。山を開いた大型団地が広がっていたように覚えている。児童の首が置かれた中学校の校門で手を合わせた。少年の家も探してみたが分からなかった。そして殺害現場の「タンク山」。下から見上げたが、怖くて登ることはできなかった。
少年は確かに「普通」ではなかったかもしれないが、「普通の少年」との差は僅かなのかもしれない。その違いを社会が救えていたら、事件は起きなかったのか。どうすれば事件の教訓を生かせるのだろうか。
(文芸春秋、1238円+税)
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