第5章  設計は大混乱 


<1997年2月>
 いよいよ設計です。それまで土地が決まっていなかったので、具体的にどんな設計にするか決められませんでした。「自由空間2」という建物は、見方によっては「へんなの」と言われる外観をしています。でも見方によっては、ワインレッドと白のツートンのおしゃれな外観ととることもできます。わたしたちはこのシンプルなサイコロ型の外観がけっこう気に入っています。まだこの段階で他の商品にすることもできたのですが、迷わず「自由空間2」に最終決定しました。
 さてこの建物は、床面積36坪、41坪、50坪の3タイプ、東西南北の玄関4タイプ、つまり3×4の12タイプのベースが選べます。1階は、キッチン、バス、トイレ、階段、玄関などの基本的な位置以外はすべて自由に部屋をつくることができます。1階はLDKとしてオープンスペースにしていいわけです。2階は真ん中の耐力壁以外は自由に設計できます。50坪タイプなら25畳の部屋ふたつという間取りも可能なのです。
 わたしたちは、カタログを何度も何度も見直し、どういう設計にするか家族会議を繰り返しました。
 基本的にここは絶対、という条件がいくつかありました。
@「仏壇」を将来実家から持ってくるので、仏間のついた「和室」がいる。
A対面キッチンにしたい。とうちの奥さんは言い張る。
B本やオーディオ、CD、パソコンを置き、80インチスクリーンでプロジェクター投影ができる部屋、つまり私の趣味の部屋がほしい。
C将来母と同居するので、母の個室がいる。
D子供部屋は二人分いる。
E玄関に収納がほしい。
Fタンスをまるごとしまえるウオークインクロゼットがほしい。
GTVや電話の配線に細かい注文がある。
Hエアコンはマルチエアコンで、できるだけ多くの部屋につけたい。
Iあこがれの天窓をつけたい。(なぜこんなものにあこがれるんだ)
 どうでもいいことも結構多く含まれていますが、じつはまだまだ当初の希望は果てしなくありました。とくに@〜Dは絶対にクリアしたい問題でした。
 ところが、実際に自分で方眼紙に設計をしてみるとどうしても条件をクリアできないのです。当初、41坪タイプで設計を始めました。和室と母の部屋は1階にとらなければならない。(母の年齢を考えると10年、20年後も2階というわけにはいかないだろう)しかし、LDKをとった残りを考えると、2部屋とるスペースはあってもうまいかたちでとることができないのです。
 入り口や、家族の通るところを考慮すると、たとえば、母の部屋をいつも家族が通るようになったり、仏壇の置き場がなくなったり、とにかくうまくいかないのです。
 土地の形からみると、玄関は東にしか持ってこられません。つまり東玄関タイプのベースで設計をしなければならないということになります。でも設計がうまくいかない。考えに考えたあげく、一発逆転の名案を思いつきました。それは、南玄関タイプのペースでした。南玄関タイプは、北に1部屋南に大きな1部屋というかたちでベースがあるのです。南をLDKと続きの和室、北を母の部屋とすればばっちりです。
 もちろん南に玄関はとれません。そこで、自由設計なのだから、南玄関タイプのベースをぐるっと回して東向きにしてしまおうと考えたのです。そうするとベランダやリビングのおおきな掃き出し窓が東にいってしまいます。だから、ベランダや窓を南に移してしまおう。何とすごい名案でしょう。これでどんどん夢は膨らみました。2階にフリースペースをつくってつくりつけの本棚を置こうとか、ミニシアターをつくろうとか、どんどん趣味に走って図面を書きました。
 2階は、南向きに子供部屋、二人という予定で、14畳ほどを一部屋取って将来は間仕切りもできるという考え方です。そして趣味の部屋(PCとオーディオ、ミニシアター)そして、ウオークインクロゼットのついた寝室。
 そして、ここが目玉なのですが、階段を上がって、各部屋に行くための廊下があります。廊下の東のつきあたり、もしくは中央にオープンスペースを取るのです。ここに壁いっぱいにつくりつけの本棚をつけ、図書館か本屋さんのようにしてしまおう、そしてテーブルをおいて、気軽に立ち寄って本を読めるようにしよう。もちろん、上を見上げれば「天窓」がついている。(けっこうこの当時は「天窓」にこだわっていたのです。なぜ、そこまで?本人にもわかりません。)
 しかしまあ、これが完成した第1号設計図だったのです。ここに紹介しようと思ったのですが、残念なことに、見つかりませんでした。いっときコルクボードにはってあったのですが。
 もうこれは完璧だ、すごいぞ、いい家だなあ、などど自己満足の世界に浸りきり、もう水も漏らさぬ設計と、悦に入っておりました。早く来い来い打ち合わせ!きっとミサワホームも感心してくれるぞ!と息荒く具体的な設計打ち合わせの日を待ち望みました。
 さあ、いよいよ打ち合わせです。具体的な中身に入る前にどのタイプを選ぶか、という話になりました。つまり、東西南北4つの玄関タイプ、36、41、50の3つの坪タイプです。そこで、意気揚々と説明しました。まず41坪タイプにすること。そして、1階にLDKと別に小さくていいので一部屋いること、それは南玄関タイプしかないこと。しかし、うちの土地の形状と、外観のかっこよさを考えると、南玄関はちょっと・・・ということ。そして、ここがウルトラCとばかりに、南玄関タイプを東向きに建てる!と言ったのです。向きを変えるとベランダや大きな掃き出し窓が東向きになるので、全部南に付け替える、窓という窓が全部南用に移動してしまう、設計図とともに具体的に詳しく改造計画を出しました。
 ところが、担当者は考え込んでしまいました。それはちょっとできない。というのは・・・・。
 そうなのです。ここにきてやっと分かったのです。企画型住宅の自由設計というものがどういうものであるのかということがです。大量生産というのは、パネルに組み込んだ窓やら何やらを含めての大量生産であり、窓やベランダを動かすというのは無理なのです。プラモデルのキットを改造するようなものなのです。南玄関を東向きに建てることはできても、窓やベランダは勝手に移動はできません。
 それでも、そのときはすっかりその気になっていたので、納得がいかず、この計画を曲げようとしませんでした。しかし、担当者の説明によると、窓を移動するということは、パネルを削ったり、穴埋めしたりしなければならず(工場でのプレカット生産だから当たり前なのですが)窓一つにつき数万円の工賃がかかってしまうということでした。しかもベランダなどは強度も保証できるわけではなく、工事自体ができるかどうかわからないということでした。
 考えに考え、ついに設計は白紙に戻りました。さて、どうしようか。今までの案がすべてなくなってしまったのです。呆然としつつも、すぐに気持ちを切り替えて新しい案を作らなければならない。だんだんせっぱつまった気持ちになっていきました。担当さんは、ああでもないこうでもないと、次の案を考えます。でも、気に入りません。100パーセントの案の後にそうそう良い考えは出てくるはずもありません。
 悩みに悩んだあげく、私たちはあることに気づきました。それは、私たちにとって重い足かせをはずすような、気持ちを軽くするものでした。それはつまり、家は年がたてば改装もできるし、いつまでも建てたときのままではない。住む人の年齢や生活の変化に応じてそのときそのとき住みやすいように変えればいいんだということです。
 わたしたちにとっての足かせは、母が年を取ったときのために、母の部屋を1階につくらなければならないということでした。しかし、現実には家を建ててもしばらくは同居しないし、同居してもまだまだ2階の部屋で不自由ないのです。母の部屋を1階にしなければならなくなったときに、1階を改装すればいいのです。そのときはリビングを2階に持っていくとかいろいろ方法はあります。
 この点がクリアできると、あとはスムーズに設計が進みました。何度も細かい点をつめて、設計図がだんだんと完成していきました。
契約書です。 一階の設計図です。
外観の設計図です。 2階の設計図です
 まず1階ですが、玄関を入って右手はバス、トイレになります。上の設計図では右上の一角にあたります。ここはちょっとこだわってみました。まず、バスですが、標準のものではなくて黒いフロアでちょっとリッチな十数万円高のおふろです。でも企画型住宅なのでユニットバスですが。本当はM−ウッドがよかったのですが。洗面台は、公共の洗面所みたいに、洗面台がはしからはしまであるテーブル?みたいなものです。INAXのカタログで探してきました。これもけっこうかかりました。
 キッチンは対面キッチンで、これはうちの奥さんのあこがれでした。あとはすべてリビングになるのですが、東面に6畳の和室と仏間を作りました。南にいっぱいにとると8畳取れるのですが、そこは縁側にして、付和室の雰囲気をねらいました。
 残りはリビング15畳、ダイニング4.5畳とひろびろした空間が取れました。
 玄関ホールには1畳ほどのもの入れをつけました。後に工事段階で階段下収納もつけてくれました。
 2階ですが、まず南面に寝室(10畳)とウォークイン・クロゼット(3畳)、収納、反対側が子供部屋または母の部屋(10畳+収納)、北面が子供部屋または母の部屋(6.5畳+収納)、書斎というか趣味の部屋(10畳)という構成です。トイレもつけました。10畳と6.5畳は母と子供部屋で子供の成長に応じて使い分けようと計画しました。
寝室のドアは書斎?からしか入れません。(上図参照)そうすることでめいっぱい部屋を広く取ることができました。
 自由空間の屋根ですが、基本的には軒下というものがありません。上の図をみてわかるように、稜線の終点が外壁なのです。これはオプションでふつうの軒のあるものも選べますが割高になります。
 この家のデザインは軒の出のない方が合っているような気がして結局、軒の出のない方を選びました。(見方によっては不格好と映ります)
 とにかく設計図が無事完成して、わたしたちはほっと一息・・・つくまもなく着工へと移っていくのでした。
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