第4章  土地を探して行ったり来たり 


<1997年1月>
 土地が決まらなければ設計どころではない。1997年は、土地探しからスタートしました。地面はどう数えるの。ここからお勉強です。もちろん、「坪」という言葉は知っていました。でも実際一坪ってどれくらいの広さなんだろう。「ひとつぼ」3.3平方メートルというのも家探しをはじめてから、はじめて知ったような状態です。うちの超片田舎の実家がよく「うちは150坪ある」と言っていたのですが、あの広さが150坪なら、まあその半分で十分だなという感覚は持っていました。
 150坪というと聞こえはいいですが、なんせ坪単価3万円を切るような土地です。いくら自慢しても、ただの遠吠えです。土地探しで学びました。土地の価値は「広さ」ではなく「場所」である。土地の価値は、一本の道路でも変わる。その他諸々。車を運転していても、空き地につい目がいってしまう日々でした。
 私たち夫婦は仕事の都合上どうしても、実家の土地に家を建てることができません。新しく土地を買わなければならないのです。いろいろな条件を考えに考えた末、安岐町、杵築市、日出町に照準を絞りました。空港に近く地価も安い、しかし大分市には遠いのが安岐町です。杵築市はうちの奥さんの実家があります。日出町は新興住宅地として今土地がどんどん開発されているこれから期待度ナンバーワンの町です。都会度は3つの中で一番です。
 まず、第一候補に挙がったのが、安岐町のハイテクニュータウンという最終的には300戸近くになるであろう巨大団地です。住宅供給公社の団地です。一戸あたり80〜100坪というゆったりした区画になっています。しかも、「ハイテク」という名前だけあって、電線等の地中化、ケーブルテレビの敷設など最新設備も整っています。坪当たり9万という値段も、魅力的です。100坪でも900万です。お互いの勤務地のちょうど中間にあり、それも理想的です。97年2月第一期の販売が予定されています。早い時期からここには目をつけていろいろと情報を仕入れていました。まったく欠点のない理想的な土地です。
 土地自体は理想的ですが、環境的にどうも、という点があります。一番大きな問題になったのが、「学校」です。小・中とも遠いのです。高校となると、どの高校に行くにもかなり通学方法に苦労します。これから子供を育てていくことを考えると、これは本当にネックになりました。また、計画自体は巨大ですが、本当にそれだけの需要があり、大きな街ができるのだろうかという疑問もありました。町の人口や企業の誘致などを考えると、不安が大きいのです。また将来的に母と同居することを考えても「歩いて生活できる」、つまりちょっとした買い物なんか近所でできる環境が必要でした。
 考えあぐねているうちに、決定的な通知がきました。ハイテクニュータウンの工事は当初の計画より遅れ、販売は98年の2月より行います。そんな通知です。丸1年遅れです。がっかりした、というより、これで見切りがつけられるという安心感が先立ちました。きっと本心は気が進まなかったのでしょう。これで第1候補はあえなくボツです。
 第一候補に見切りがついたところで、土地探しはがぜん活発化してきました。不動産屋をかたっぱしから渡り歩きました。実にいろいろな土地を見ました。このころは、どこそこの土地なら坪いくらと簡単にわかりました。土地の値段というのは面白いもので、杵築のあるところでは、橋を越えると坪5万円の差がつきました。暮らしているうえにはそう距離も変わらないのですが、不思議なものです。
 また、同じ地区の土地でも値段だけでは判断がつきません。安いと思っても、実際に見てみると造成も何もされてないただの草むらで、これから造成工事を入れるとたいして安くはなかったり、造成してきれいな土地だけど、進入道路が狭くて、そんな造成までしなければならなかったり、とにかく実際に自分の目で見なければならないのです。
 杵築で見たある土地は100坪で坪6万、高台から海が見渡せます。朝日がきれいだろうなあと想像をふくらませます。背後の崖が気になったのですが。この土地は翌年の台風で崖崩れを起こしました。すでに家は建っていました。もし自分が買っていたらと思うとぞっとします。
 また日出のある土地は、目の前に海が広がる絶景の土地でした。こんな見晴らしのいいきれいな海を毎日拝めたら、、、。でも、まわりに何もない不便な土地だったので、買う話までいきませんでした。真っ青な海が開けた景色は忘れがたいものがあります。
 当たり前といえば当たり前なのですが、景色のいい、見晴らしのいい土地は当然、山の上や崖のふちといった高台の不便なところにあります。でも本当に魅力的な景色がおいでおいでをしているのです。ああ、残念。
 何だかんだ言っても時間が限られています。候補地を絞らなければなりません。おおかたの目途がたったのはふたつです。日出町川崎周辺の新しい造成地、杵築の宗近地区の造成地です。やはり、宅地造成されたところが、あとあと安心だし、追加工事もいらないし、というところで意見がまとまりました。日出町川崎地区は今注目の地区です。どんどん宅地が造成され、人口の増加率もトップです。駅も近いし、その他ひととおりの住環境は歩ける範囲でそろっています。川崎地区は造成地だと当時だいたい坪16〜19万でした。一方杵築のねらっていた土地は15万以下です。
 うちの奥さんは細かな性格で、杵築と日出のメリット、デメリットをリストアップしました。彼女はこういうところは実に堅実な人で、たちまち一覧表ができあがりました。差し障りがあって、ちょっと内容は公表できませんが、結果は日出、杵築とも五分五分でした。どうしよう、どうしようでまたまた日々は過ぎていきます。
 杵築の造成地は100坪ほどのひろびろとした土地です。周囲も新しく建った家ばかりで、近所に幼稚園もあります。6区画ほどの規模で、「閑静な」環境にあります。最後まで気になった点が一つ、前に大きな池(というにはかなり大きい、小ダムといった感じ)があります。ガードレールはつくらしいのですが、どうにも気になって気になってしかたありません。「幼児水死」という見出しが頭にちらつきます。こんな広くて、安い土地なのに、、、。どうしても気になるのです。
 不動産屋を土地を買う場合、5パーセントの手数料がかかります。1000万なら50万けっこう気になる額です。川崎で造成地なら1000万を切ることはまずありません。そこでがぜん浮上してきた土地があります。灯台もと暗しで、じつはミサワホームの団地が川崎にあったのです。ヒルズガーデン日出、30区画で60坪平均の土地です。実は他の造成地に比べて若干高めなのですが、集中プロパンだし、もちろん建築条件付きなので周りにはミサワの家しか建ちません。しかもなんとミサワの団地なので、不動産屋に支払う5パーセントがいらないのです。杵築のひろびろ80坪は望むべくもありませんが、日出という立地を考えれば、60坪でも十分です。
 うちの母もつれてきました。ここでいいよ、とちょっと不安そうではありましたが納得しました。そして、杵築の土地に決定的な事実が浮上しました。間に合わない公算大というのです。いろいろと登記関係の手間を計算すると、ぎりぎりで完成の予定なのだそうです。何かミスがあれば完全にアウトです。もともと例の「池」が気になっていただけに、見切りをつけるにはいい機会でした。
 なんだかんだで、日出に決定、その後数件の土地をみましたが、結論はヒルズガーデンで揺るぎませんでした。そうなると次はどの区画を買うかです。これもけっこう何度も足を運んで、あれこれ悩みました。大まかな図面を書いてみたり、広さと値段を検討したり、毎日毎日家族会議が開かれました。3つの候補から、最終的に今の土地に絞っていきました。
 土地の契約というのも初めての経験ですが、ミサワの不動産部との契約ですので、安心して契約できました。土地の地盤耐力検査のデータなどもくわしくついていて、さすが大メーカーは違うと圧倒させられました。
 さあ、土地も決まってしまった。設計だ、設計だ!どんな夢を描こうか、、、。家造りの醍醐味ともいうべき設計にいよいよ突入していきます。
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