第3章 いよいよ契約、あともどりはできない 


<1996年12月>
 Mウッドはいい。ミサワに傾いていったはじまりはこれです。
 チップを圧縮加工したミサワ独自の材質ですが、これにより、かなり細かな加工も可能になり、窓の縁等細かい化工が施されます。実はこの段階で、Mウッドはジニアスシリーズにしか使われておらず、ジニアスを建てない限り、Mウッドは拝めないわけです。
 花の木(大分大学近くのミサワホーム団地)に「ジニアス和風」を見に行きました。ひとつひとつの部屋は狭くかんじましたが、Mウッドの質感はおおいにわたしたちをひきつけたのです。しかし、玄関前の看板を見てがっくりうなだれました。坪50万をはるかに越える額は、わたしたちの予算では無理です。無理をするなら、建坪の一番小さいのになります。
 次の目当ては「自由空間2」です。「自由空間2」は、サイコロ型の総二階住宅に、軒の出っ張りのないなかなか個性的な外観を誇っています。1階、2階設計できるという自由設計も売りです。私たちはカタログを何度も見たり、紹介ビデオを見せてもらったりしてしていました。ここで自由空間の実物(内部)を見たかったのですが、展示場になっているものはなく、入居者のいる実際の外観を見ただけでした。「家族日記」は展示場があったので見ましたが、外観がどうにも好きになれませんでした。
 この見学で、「ミサワなら、小さいジニアスか、大きい自由空間2」という結論に達しました。「ミサワなら」というのは、まだエスバイエルの線がわずかながら残っていたからです。それでも、何度も何度もカタログを見直し、あちこち見学に行き、だんだん「もうミサワで決まりだな」という気持ちになっていきました。エスバイエルのわずかな線も消え、「ただ断っていないだけ」という状態になりました。
 毎日のように相談をする中で、うちの奥さんは「Mウッドが絶対いい。」と強く主張します。また「自由空間2」の外観は美術館みたいでいいといいます。これがあとあと大きな勘違いになるのです。確かに、カタログではシンプルで、個性的な外観をしています。東面は玄関ドアと2階部分の窓が縦につながっていて、それ以外はワインレッドの外壁、南面も左右の掃き出し窓は1,2階同じ位置であとは白とワインレッドのツートン、軒の出がないので、本当にサイコロそのものという外観、玄関には黒い鉄柱のポーチ。ほんとうに小さな美術館というかんじです。
 しかし、実際に建ててみると、北面・西面はふつうのプレハブ住宅だし、雨樋やエアコンのダクト、室外機などでなかなかシックなかんじにはなりません。また玄関のポーチはオプションで70万くらいすると言われ、結局あきらめました。まあ、現実はこんなものです。
 そして、われわれの出した結論は、企画型住宅のなんたるかを知らない非常識なものでした。(この「企画型住宅のなんたるかを知らない」という点が設計でも大いに混乱を招きます。)その結論とは、「自由空間2を建てるが、内装はMウッドにしてくれ」というものでした。あっさりと断られました。
 とにかくミサワで建てる、その結論は出たのですが、ジニアスか自由空間かという点で迷いに迷いました。ちょっとまとめてみます。
    自由空間2 ジニアス(洋風・和風)
価格 設計で変わるが坪40万〜。(建物のみ) 坪50〜60万以上。(建物のみ)
外観 自由空間2
ジニアス
休日の家(洋風)
ここが○ ・上に述べた個性的な外観
・自由な間取り設計
・傾斜天井
・比較的安い
・Mウッドの内装(Mウッド風呂もあり)
・落ち着いた外観
・雨でもOK、インナーバルコニー(和風)
・家具(ローボード)など質感がいい。
ここが
ちょっと
・変な外観という人もいる
・Mウッドでない
・洗面台がいや
・軒がないのが不便
(OPでつけられますが)
・廊下は広いがその分部屋が狭い
・玄関ドアがいや。
・高い(これで断念しました)

 自由空間の間取りについて説明します。総二階ですので1階も2階も建坪は全く同じです。そして36坪、41坪、50坪タイプの3種類に、東西南北の玄関4タイプの12種類が基本になります。1階は、バス・キッチン・トイレの部分が決まっているだけで、あとのスペースは自由に設計できます。2階もまったく自由設計です。ただし、正方形の真ん中に耐力壁があり、このカベだけは削れません。つまり最大25坪(さて何畳でしょう)の部屋がとれるのです。
 いきつもどりつ、決められないまま、また花の木を訪ねました。そこで担当さんはこんな申し出をしたのです。今、建築費10パーセントの割引をやっている(ミサワのよくあるキャンペーンですね)、棟数が限られているので(これもよくやります)契約をしませんかとのことです。まあ、ミサワで建てるのは決まっているから、契約をしても破棄することはないだろうが、建物も土地も何も決まっていないのにそんなことしていいのだろうか。その割引契約の着工期限は4月でした。あと5ヶ月で家を建てるなんてとても信じられないことです。それでも、もし期限を過ぎても、契約をとりなおせばいいからと担当さんは言います。そうはいっても家の建築契約です。何の見通しもなくていいのでしょうか。でも、10パーセントです。2000万として200万の割引、車が買える金額です。
 今回契約しても、しなくても4月過ぎたら割引はない。どっちにしてもミサワで建てる。200万近くの金額はやはり大きい。そう考えると、これは契約してもかまわないかな。だんだんそんな気になってきました。キャッチセールスなんかの限定何名様とあまり変わらない気がしますが、とりあえず他メーカーの対立候補がいない状況では、まあ違約金を払うなんてことはないだろうと思いました。
 ふたりとも不安はあったのですが、ミサワにお世話になるという前提のもと、予約の予約みたいな形で、キャンセルありの予約をしました。うちに帰ってじっくりと相談です。「契約しちゃっていいのかねえ」「どうせミサワで建てるんだから」の堂々巡りでした。そして、その堂々巡りに決着をつけたのは、200万近くのお金でした。値引きには勝てない。
 12月13日、契約の日が決まりました。私の仕事帰りの時間に合わせて自宅のアパートに担当さんともうひとり営業の人が来ました。さすがに契約ともなるとふたりも来るんだなどと妙に感心してしまいました。
 これまでの経緯から「自由空間2 50坪タイプ 東玄関」でとりあえず契約をすることになりました。変な契約です。家も設計も、土地も決まっていない。ただミサワで建てるということだけ決まっている。不安だらけの契約となりました。どう転ぶかわからない契約でしたが、今から考えると結果としてはよかったと思います。
 ひととおりのあいさつのあと、契約書を前にいろいろと説明を受けました。資金のこと、設計のこと、契約の内容、、、、。たとえば、代願料という各種手続きの代行料がけっこうかかるが、それは坪当たりで計算されるしくにみなっている。(この後もけっこういろいろな料金が坪当たりで計上されることがわかり、知らない世界のしきたりを垣間見たような気がしました。)また契約料というか手付けというかとにかくお金を振り込まなければならない、ただしこれは建築料の一部である。などです。
 しかし、契約書には、土地の明記もできなければ、建物の設計図もない。とりあえず書かなければならないので、土地はこの時点でねらっていたある土地(4章で書きます。)を書き、建物は自由空間2の50坪東玄関タイプを書き入れました。
 また建物の契約書は正規の金額を書き入れ、値引き分は建築援助金として、別に契約書をつくりました。
 ハンコをおす瞬間はさすがにこれでいいのかという気持ちがありました。でもやはり最後は、200万とどのみちミサワで建てるんだからという結論で納得するのでした。
 契約書に割り印をしたり、捨て印をしたり本格的な気分です。そして、契約書に2万円の印紙、この切手みたいなものが2万、さすがに違うなあと思ってしまうところが情けない。
 2人を玄関で送ったあと、わたしたちは「契約しちゃったね。」とぼんやり契約書をながめました。「契約した」ではなく「契約しちゃった」という気分でした。
 さあ、あともどりはできません。目標4月末着工!あと4ヶ月あまりで土地を探し、設計を完成させるのだ!! 
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