少し先には売店があり、オバチャンが近づいてくる。ものすごい笑顔だ。親友に20年ぶりに会ったってあんな笑顔は作れない。オバチャンは“しそ巻きラッキョウ” なるものを私達にくれて、「はい、頑張って登ってね」と言った。 この“しそ巻きラッキョウ”なるものがとてもさっぱりしていて美味い。夏にはピッタリの味だ。 そして帰りには“冷たい飲み物とおしぼりを用意しておく”と言う。(ずいぶん親切だな)などと思う私ではない。
「岡城跡」に対する興味が沸々と音をたてて湧き上がってくる。もし鬼太郎だったら、一瞬にして髪の毛がピンコ立ちすることだろう。
と、今度は前からジーチャンが近づいてくる。 なんと素晴らしい笑顔だろう。初孫をはじめて抱いたような顔をしている。 そして今度はゴーフレットと、うすくお砂糖のついたお菓子をくれて、帰りには“おしぼりと熱いお茶 を用意しておく”と言う。妖気レーダービンビンである。オバチャンとジーチャンでいうことが違うが、どっちかが間違えているんだろうと思い、別段気にもしなかった。
歩を進めて見上げると、かなり急な階段がある。お年よりの方々は手に手に杖を持っている。どこかで貸してくれるのだろう。ふうふう言いながら階段を登る。先ほどもらったお菓子を食べながら である。余談だが、このお菓子もなかなか美味い。
前からは見学が済んだ人々が降りてくる。何組かの団体とすれ違って気づいたのだが、子供がみな一様に疲れていて、不機嫌にも見える。まるで泣きっ面にハチといった顔である。
入り口である門が工事中だったのが少々残念だが、ともかく岡城跡の中へと入っていく。 すぐに目に入って来たのが、下の画像にある案内ビデオ。

左には敷地内の案内図。そして右が解説ビデオを流している装置。ビデオの中できっと、“荒城の月” が流れているのだろう。周りに群がったジーサンやバーサンが皆一様に、♪はぁるゥくぉおおろぉおぉのぉ〜と口ずさんでいる。あの私の大好きなもの哀しいメロディーが念仏に聞こえてかなり怖い。 しかもジーサンやバーサンはそのビデオの前から立ち去っても、しばらくの間は口ずさんでいるので、一緒に流れて歩いていると、まるで自分が三途の川に向かっているような錯覚に陥ってしまう。
敷地は思ったよりもずっと広く、草木に囲まれ緑が目に映える。鳥やセミの声を頭上に聞き、暑いながらも涼味満点ではある。
ここでちょっと考えてみたい。ここは「岡城跡」である。「岡城」の「跡」があるということである。 「岡城の跡がある」ということはつまり、「岡城の跡だけがある」、すなわち「岡城の跡しかない」 ということである。子供たちの泣きっ面にハチといった顔の理由はこの辺にありそうだ。
国指定の史跡である、「岡城跡」一体誰がこの城郭をぶっ壊したのだろう。
…答えは「大分県」である。どういった経緯であるのかは調べがつかなかったのだが、藩という行政単位が県に変わったあと、すなわち廃藩置県の後に、「大分県」が「岡城」を「入札」により「購入」そしてぶっ壊しちゃったら、数年後に国から「史跡」として指定されちゃったんである。
何度かの城主の交代の末に、県にぶっ壊され、史跡として指定されるやいなや、その無残な姿をさらされることになってしまった岡城。いや、今はすでに岡城跡である。名曲荒城の月はレンタローがこの城郭の名残の中で遊んでいた思い出をモチーフに作曲したのである。 あの物悲しいメロディーはまさに岡城跡にこそふさわしいのである。
さて、ここで岡城跡を見てみよう。
前述の通り、ここは岡城の跡である。施設内にはところどころに道標が設置されている。まずはこの道標を見てもらいたい。

ご覧の通り、これまた跡ばっかりなんである。
別にこれといって見るものもないのだが、施設からの景観は素晴らしく、阿蘇外輪山や久住の山々などが雄大に横たわる姿を一望できる。
「本丸まで350m」とあるが、もちろんそこに“本丸”はない。

これを見て「なんとここはトイレまで“跡”かい!」
なんて思っちゃったのであるが、良く見るとこれは私の勘違いであった。
しばらく歩くとなんだかものすごい階段を発見。 一体何があるのだろうと思って、ふうふう言いながら登っていく。
我々を誘う階段。モデルはハニー。ピース。

そしてちょっと歩くとまたもや立派な階段が。

…そして目の前に開けた風景がこれ。さすが「跡」。端っこの方ではお母さんが子供にウンコさせていたりする。

私達はレンタローを探すことにした。案内を見てみるとレンタローは“二の丸跡”という所に居るらしい。私達の居る場所からはかなりの距離である。汗びっしょりになってレンタローのもとへ向かう私達。すでに「岡城の跡」であることは身体で理解している。
“滝廉太郎銅像”という案内板を何枚か通りすぎて、私達はレンタローの前に辿りついた。 なかなかのイイ男である。アプライドの店員さんにいそうな顔立ちである。子供を前に立たせて写真を撮る家族連れが跡を、いや後を絶たない。私の帽子をかぶせて写真を撮りたかったのだが、すぐ後ろで何かに精をだしているオバチャンは攻撃力が高そうなので断念。普通に記念写真を撮った。

疲れたのでレンタローの周りにある休憩スペースで一休みすることにした。自動販売機が設置してあるので、冷たいウーロン茶を飲みながら、我々は岡城跡談義に花を咲かせた。
やはり気になるのは帰りに私達を襲うはずの“トラップ”である。私はもうそれが楽しみで楽しみでしょうがない。
汗も引き、さぁと立ち上がると「岡城案内」と書かれた灯篭がある。よく見ると灯篭の形をした「案内マシン」のようである。
灯篭型の案内マシン。
ハニーも、「どうせあいつの“オオカミが来たぞー”はウソに決まってるわ」というような目になっている。

拡大写真。お金の投入口。たぶんこのマシン、中身の全部が空洞に違いない。
もちろん、指定された百円玉を投入してみる。きっと何も起こらないであろうこと予想して、ついつい笑いがこみ上げて百円玉を投入する指が震える。
そしてその予想がまた、ものの見事に当たるのだ。もちろん返却口からは何も却ってこない。 1日にほんの二人がこのマシンに興味を示したとしても年間¥73.000もの売上を上げるこのマシン。「灯篭型ぼったくりマシーン」と命名して、その場所を後にした。