平成16年10月1日発行 第27号


本の紹介 ひろしくんの本(W)




もう「ひろしくんの本」も4冊目となりました。著者の深見憲さんは自閉症の「ひろしくん」のお母さん です。1999年に「ひろしくんの本」を出してから、(U)、(V)と書き進み、このほど第(W)を出版 しました。

「ひろしくんの本」(W)ではテーマを「ひろしくんの興味」に置いています。自閉症の人独特の興味と そのファンタスティックな世界、そしてそこにどっぷりと浸かった家族の関わり、そんな様子を紹介して います。また「ひろしくんの興味」の世界にあう人とあわない人の紹介は私たちに多くの示唆を与えてく れます。特に、自閉症児と関わる療育者や教育者だけでなくお母さんや家族の人たちに読んでいただきた いところです。

著者は現在の自閉症を取り巻く状況に危惧を抱いています。私たちは、最も大切なことを忘れているので はないかと随所で触れています。

「この37年間に自閉症に関する情報はあふれるほど、増え続けています。研究や療法も一見進んでいる ように見えます。しかし現実は個々の自閉症児のもつ個性や発達や、バックグラウンドとなる家庭環境に そぐわないマニュアル化した療法があふれています。また『完治する』と安易な言葉を使う療育者や研究 者がおられるため、翻弄される親御さんが増え続けています。」(略)

「どうしてこんなにも教えること、教えなければならないという概念に縛られているのでしょうか。健常 児に少しでも近づけてあげたいという思いの先生や親御さんの多いことにも私はいつも気付かされています。 自閉症児の世界は生まれたときから、健常児と異なる世界をもちながら、限りなくゆっくりと目に見えな いほどの小さな歩みでその子なりに発達していきます。そのことを親御さんと先生がまず理解することか ら、全てが始まると私は、博から教えてもらいました。」(はしがきより)

「これまで私のおつき合いの中で感じることは自閉症児の興味の世界がファンタジーな世界が多いのに、 この世界にどっぷり入れない先生方やヘルパーさんがおられることです。

先生方はつきあう中で良かれと思って、こうしたら、ああしたらと先急ぎする助言が多いのです。時には 先生やヘルパーさんご自身の思いこみが激しくて博のリズムとあわないことがよくありました。中には自 閉症について分かっているふりをされていますが、博に関わるときの言動に何も理解していないちぐはぐ な対応となり、博がとまどっていることが私にはよく見えるので困りました。」(本文より)

著者は、この本の最後を次のように結んでいます。「私はこうした道筋というかプロセスを早期発見、早 期療育に携わる方々に知っていただきたく、また自閉症児の一生の中での今をどうとらえていくのかとい う個々のニーズにあったとらえ方のご指導を是非お願いしたいと思っております。」(本文より)

「自閉症児の世界はファンタジー」ということばには、とても興味をそそられます。ディズニーランドの ようなわくわくする世界か  こんがりいい色に なり、いい香りがたち始めたらトッピングタイム!スタッフが「どれにする?」と聞くと「全部!」と答 える方・・・「えー!!」とみんなに言われながらもご本人さんは自信満々にトッピング。反対に二種類 ほど入れたらもうそも知れません。そんな世界を共有できればどんなにかすばらしいことでしょう。自閉 症の人たちへの支援は、そんな世界を共有するところから始まるのだということをこの本は教えてくれます。

(田北)


「ひろしくんの本」深見憲著、2004年、中川書店、1400円+税