| 一に努力、二に根性、三四が無くて、五に苦労…。
これが彼の人生観である。魔法を使う者の最高位に当たる賢者を目指して約半年。もともと
ホイミしか使えなかった彼が、なんとかメラとギラをも会得することに成功した。
彼の名はフジ。いっぱしの賢者である。
今日もいい天気だ。修行にはもってこいのさわやかな日。とある小さな村でフジは毎日のように
賢者修行にいそしんでいる。フジの一日は、まず朝六時に目が覚めることから始まる。それから一人で
朝食。母と父はまだ夢の中にいるのだ。そして歯を磨いて着替えてヘアースタイルを決めたら修行開始。
まずはジョギングだ。賢者たる者、体力だってないといけない。重い防具を装備できるように
なりたいから。ちゃちい防具だとすぐにけがをしてしまいそうでこわいから。村を一周。
一周以上走ったら息が切れるから一周。
それから剣の稽古。賢者たる者、武器も扱えなければいけない。マホトーンされるとこわいから。
もし、どこかに存在するという伝説の勇者の仲間になって、「役立たず!」なんて言われたら
こわいから。
そのあとも跳躍力を高める特訓や、俊敏さをはぐくむ特訓などなど…をして、気がついたら
午前の修行は終わっている。彼は努力人、苦労人、そしてそれ以上に心配性であった。
さてお昼食は、畑仕事を終えた両親といっしょにする。母のつくったおにぎりはおいしい。
「フジ、どうだ調子は?」
「まあいいんじゃないかな。」
母との他愛ない話。ほのぼの空間だ。母は昔ヤンキ〜をしていたらしく、ちょっと口がわるい。
「じゃ僕午後の修行にいくよ。」
「もうちょっと休んでけよ。今くったもん全部耳から出ちまうぞ。」
「………休んでいくよ…。」
優しいんだか怖いんだかの母の一言で、フジはいつもちょっと休んでから、午後の修行を開始する。
* * * * *
もうずいぶんと日が高くなっている。
(休みすぎたかな…。)
少し空を見上げたあと、フジは呪文書を開いた。現在"ヒャド"について研究中だ。
「氷系の呪文ねぇ…。メラと正反対だもんなぁ…。」
師匠もいないフジは、独学で呪文について学んでいる。
「え〜……っと、ヒャドを使うときは…」
フジが座り込んで呪文書を読みふけっていると、急に背後からけたたましい大声で呼ばれた。
「フうぅぅぅぅぅ〜ジっっっ!!!!」
どっかーん。
後頭部ににぶい痛みが走った。頭の中をほじくり返されるような、ものすごい痛みが──。
フジは思った。「ああ、僕はこのまま死んでしまうのかな…」と。
「大丈夫?フジぃ。」
黒髪を二つのおさげにした少女が、心配そうなふりをしてフジの顔をのぞき込んだ。
「〜大丈夫なわけないだろっっ!なんでおまえはそう出会い頭に俺の頭を殴るんだっ!?」
「なぐったんじゃないよ〜。ずつきしただけだもぉん。」
「一緒だっ!」
少女の名はムラサキ。若干十三歳ながら、力だけはフジを上回っている。とくに頭は、
どこのだれよりもダイヤモンドヘッドであった。
「ねぇねぇフジ、あそぼー。」
「ダメ、今修行中。」
「本読んでるだけじゃーん。」
「これが修行なの。」
「え〜あそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼぉぉ〜よっ!」
「あーうるさいなっ!修行中だっつってんだろっ!」
「さてアタシは今何回『あそぼ』と言ったでしょう?」
「知るか、んなことっ!」 ※答え、十一回
横でぎゃーぎゃー騒がれては修行もできやしない。
ムラサキは毎日フジの所へ遊びに来る。遊びに来てはフジの呪文修行の邪魔をする。しかも本人は
まったく邪魔しているつもりなどないからタチが悪い。フジはすっかりまいっていた。
と、そこへ白髪のじいさんが走って二人の所にやってきた。
「こりゃあ若僧!わしのムラサキになにしとんじゃ!」
「あ、じいちゃん。」
このじいさんはキリツボ。ムラサキの祖父であり、孫を溺愛するおじいちゃん。そしてその実体は、
若いギャルをこよなく愛するむっつりスケベじいさんであった。
どうやらお怒りのご様子である。
「オイ若僧!どうしてもムラサキがほしいのならわしを倒すがいい!」
また急におもしろいことを言い出すじいさん。
「いや、別に僕は…」
「わーいフジぃ!またアタシのために戦ってくれるんだねっ♪」
ムラサキがうれしそうにくるくると回っている。
「ちがうって!」
フジは先日キリツボのじいさんに戦いを挑まれ、見事に勝利した。キリツボはメラしか
使えなかった。年のせいで今まで会得してきた数々の強力な呪文を忘れてしまったのだ、と
捨て台詞をはいて逃げていった。
「今日のわしは今までのわしとは一味ちがうぞ!くらえ、メ〜ラ〜」
(またメラか…。)フジは苦笑いをした。
「ミっっ!!」
「!」
瞬間、キリツボの手からメラより一回り大きい、まっかな炎が放たれた。その炎はフジの
肩越しにすれすれにとんでいった。そして後ろあった岩にぶつかり、そのままゆっくりと消えていった。
フジは顔を青くした。なんでじいさん、メラミなんか…。
「じいちゃんすっごーい!」
ムラサキが目をきらきらさせながら喜んでいる。キリツボはぜーぜー言いながらVサインをした。
「フジ、フジ!フジもなんかやれーやるんだー!」
確実に成長した祖父に感動しながら、ムラサキはフジに期待の目を向けた。
「そんなこと言っても僕はまだ呪文三つしか…。」
メラとギラとホイミ。しかもホイミは今の状況では役にたたない。
(ま…負ける…)
フジの心に敗退という二文字がよぎった。別に負けてもかまわない試合なのだが、負けるというのは
決して嬉しいものではない。いつか出会うかもしれない勇者さまに、こんなじいさんに負けてしまったことが
知られたりなんかしたら…。
「はん!まだ二十三の若僧にムラサキはやれんわっ!いくぞ!メ〜ラ〜」
「僕まだ二十一です!」なんてつっこみを入れているヒマなんてない。くる。
「ミっ!」
フジは守りの体制に入った。下手によけては危ない。
そのとき、キリツボの手からまたも大きな炎が…炎が……。
「でないねぇ。」
残念そうに言うムラサキ。
「むむむ…やはり…今のわしの…魔力では…ぜぇぜぇ、一発だけが…ひぃひぃ、精一杯…。」
魔力というかむしろ体力がないようである。
フジは守りの体勢をどうすることもできなく、ぽかんと口を開けていた。
「わぁーーーい♪またフジの勝ちだぁ〜。」
「い、いや…僕は何も…。」
実は前回の戦いも、フジが何もしないまま勝手にキリツボが倒れて終わってしまったのだ。
「ううっ…二回もこんな若僧に負けてしまうとは…たかだか二十四歳の若僧に…。」
「いや、だから僕まだ二十一なんですけど…。さっきより増えてるし…。」
「わかった!ムラサキはおまえにやる!」
「は?」
何を言っているのかわからない。
「やったね、フジ。」
ムラサキはうれしそうにフジの手を握った。
「孫を…孫を頼むぞっ!うううっ…」
涙を流し走り去るじいさん。残ったのは若い二人。フジは呆然と立ちつくした。横でムラサキが
にこにこ笑っている。
「あ〜…まあ僕は今から修行再開だから…。」
フジがムラサキの手を払い、呪文書を広げようとすると、
「ダメだよー。これからフジはアタシと遊ぶんだから!」
とムラサキがその呪文書を思いっきりとじた。
「あーもーだから俺は忙しいのーっ!」
ムラサキはいやがるフジをむりやり引っ張って、村の広場へと駆けていった。
フジは知らない。じいさんがどうしてあんなに必死なのか。
フジは知らない。微妙な少女の心なんて。
賢者──賢い者。
「じいちゃんじいちゃん!アタシね、フジのおよめさんになるんだ!」 |