「リラちゃ〜ん(´▽`)♪」
ゆるい声が後ろから聞こえ、お尻に違和感を感じた。
人の手。尻。さわる。自分の尻。さわられる。しり。
「……っ何をするんだぁぁぁ!!!」
黒髪の少女が叫び、思いっきり後ろを振り返った。
しかし、振り返ったときにはもう誰もいなかった。
幻か…?
少女の名はリラ。いわずと知れた勇者である。男まさりでごうけつで、少年ちっくだが純真な少女だ。
リラは辺りを見回した。さっき、確かに自分の尻を…
「リラちゃ〜ん(*´▽`*)♪」
またゆるい声が聞こえた。
それと同時に、尻に走る気持ち悪さ。なでなで。
「ぎゃああああああ!!!」
草原にあまり甲高くない悲鳴が響いた。
「何なんだアイツはっっ!??」
顔に血管を浮かばせ、リラは怒鳴った。
「さぁ…」
困ったように首をかしげる僧侶、サラ。勇者と旅をする仲間だ。
さらさらと流れる青い髪が美しい。
「何だと言われてもなぁ。」
頭の後ろで腕を組み、どーでもいいように答えるおさげの武闘家、レイ。
彼もまた、勇者とともに旅をしている仲間だ。
宿屋。三人は小さなテーブルを囲み、真剣に話し合っていた。
話し合いの内容は、いつもリラの尻をさわってくる遊び人について。
彼の名はギンザ。アッサラームで知り合い、気がついたらついてきていた
よくわからないヤツだ。
最初はまじめにいっしょに戦ってきていたギンザだったのだが、
仲間と親しくなるにつれて、なぜかやたらとリラの尻を触るようになってしまっていた。
一体なぜなのか?
「なんでボクは尻を触られるんだ?」
リラはまじめに二人に問いかけた。
あまりにまじめな顔で問われ、サラは困った。レイは笑った。
「何がおかしいんだよッ!」
「わりわり。つまりさ、リラの尻が好きなんだろ、アイツは。」
笑いながら答えるレイ。
「うん、リラのお尻って引き締まってるしね。」
笑顔で答えるサラ。
「おお、解決じゃん。よかったなぁリラ。」
笑顔のまま、ぽんぽんとレイはリラの頭をたたいた。
「そっか、ボクの尻が好きで……って納得いくかぁぁ!!」
テーブルが激しくひっくり返された。
「ただいまぁ(^o^)」
ゆるい声が宿の部屋に入ってきた。噂をすれば影、ギンザだ。三人は同時に彼を見た。
というか彼の鼻を見た。青く丸い、ギンザの鼻。つけっ鼻だが、彼の存在はその鼻にあった。
立派な鼻だ。なんて丸い、きれいな鼻。
「おかえり。」
にっこり笑ってサラが返事をした。
リラは警戒している。
レイはひっくり返されたテーブルを戻している。
「どこに行ってたんだ?」
サラのかげにこそこそ隠れながら、リラはたずねた。
「うん、ちょっと武器屋にね(^-^)♪」
なんと、武器屋。
遊び人のギンザが武器屋とは。天変地異の前触れか。リラは真剣に悩んだ。
「あそこの娘さんのおしりがキレイなんだよね〜(^▽^)♪」
こけた。
「お、お前はおしりを何だと思ってるんだぁ!?」
「おしりっていいよね(o^-^o)」
「いや、だから何なんだぁ!」
「リラちゃん、もしかして…(>o<)」
「?」
「ぼくが他の子のおしりに見とれてヤキモチ(’o’)?」
どかぁん。
宿屋の一室が謎の轟音に包まれた。
そして勝負のときが来た。
「いいか!ボクが勝ったら二度と尻を触るんじゃないぞ!!」
「えーやだよ(>_<)」
「うるさぁいっ!黙って勝負しろっ!!」
街の裏の草原。勝負をするにはうってつけの場所だ。
勇者リラVS遊び人ギンザ。
世界を救うべく勇者がこんなところで尻をめぐって戦うとは、平和な世の中である。
鳥がちゅんちゅん鳴いている。
「ねぇ、勝負するのはいいけど…一体何するの?」
確かに。何をするのだろう。
まさか本当に戦うわけではあるまい。
と、勇者がおもむろに背中から何かを取り出した。太陽の光に反射し、
きらりと光る長いもの。
「ちょ、ちょっとリラ…?」
困惑するサラに見向きもせず、リラは真剣に言った。
「勝負だ!ギンザ!!」
リラの手に光る長いもの。
ノアニールで購入して以来、気に入って使い込んでいるステキな武器。
その名もはがねのつるぎ。毎日のお手入れはかかしていない。
少年ちっくなリラは、自分のお肌よりも剣のお手入れに大忙しだ。
毎日磨かれているはがねのつるぎは、今だに新品同様だ。
と、そんな剣でリラはギンザに向かおうとしているのだ。
ギンザの手には古ぼけたこんぼう。リラが旅立つときに持たされた、タダ同然の武器だ。
武器マニアのリラは買った武器を決して売りはしない。
いつか自分の部屋に世界中の武器をコレクションするのが夢だという。
味気ない新品の武器より、使い込まれて輝きを増したものの方が好きらしい。
預かり所は、いらない武器でいっぱいだ。
「覚悟ぉーーー!!」
と、リラがギンザに向かって攻撃を仕掛けた。
大きく振られるはがねのつるぎ。
もちろん本気で斬るのはまずい。かすりキズでもいいのだ。
自分への恐怖を植えつけることで、リラはギンザからのおしり攻撃を
回避しようとしていたのだ。
……と思っていたのだが、何だかリラは思いっきり本気のような感じだった。
我を忘れているらしい。
がんばりやさんの僧侶が近くにいるので、最悪の事態は免れるが、斬られたら痛い。
ギンザは…
「とぉっ(`o´)!」
すばやく跳びあがり、リラの攻撃を見事にかわした。
しかもすごいジャンプ力だ。
「なっ…!」
まさかよけられるとは思っていなく、リラはひるんだ。
そのときだった。
「おしり、いっただきぃ('-^o)♪」
ぺろんとのびた手。そしてぺろんと触られたおしり。
リラは思わず叫び声を上げた。
「こ…のぉぉーー!!!」
そして再びギンザに立ち向かう。
しかし彼はただ者ではなかった。
瞬時に横に移動し、リラの攻撃をかわす。そして尻を触る。
しばらくそれが繰り返された。
「……なぁサラ。」
「ん?」
「この戦い…いつ終わるんだ?」
「…さぁ…?」
いつまでも続くこの戦いに、無意味さを感じたレイがサラにたずねた。
確かにこの戦い、いつまでも終わりそうにない。リラはあきらめないし、
ギンザは楽しそうだ。
レイは少し考え、二人に言った。
「ストーップ!休憩だー、二人とも休めー。」
さすがに疲れてきたリラがこの声に耳を傾けた。
ぜぇぜぇ言っている。
ギンザは元気ハツラツだ。
リラは戦いを見守る二人のもとへ向かい、腰を下ろした。
ぜぇ…ぜぇ…。
疲労の色は隠せない。ずっと剣をふり、しりを触られているのだ。
「大丈夫?リラ…」
サラが心配そうにリラの顔をのぞきこむ。
回復呪文をかけようかとも言ったが、リラはそれを断った。
勇者の誇りをかけた戦いに助太刀は無用だという。
誇りというか、しりをかけた戦いだが。
休憩の間、レイは考えていた。どうやってこの戦いをとめようか。
リラは疲れているくせにがんばるし、ギンザは疲れていないし…。
「リラ。」
考えをまとめたのか、レイは真面目な顔でリラに語りかけた。
「いいか、ギンザはな、おまえの反応を楽しんでるんだ。」
「…ぜぇぜぇ…」
「つまりだな、おまえが怒るだろ、それがギンザに拍車をかける。」
「…ふぅふぅ…」
「だから戦いなんかやめて、ほっときゃいいんだよ。」
「……なんでだ?」
「いや、だからおまえが怒るから…」
急に形相が険しくなったリラにうろたえるレイ。
リラは立ち上がり叫んだ。
「しりを触られて何で怒ったらいけないんだっ!!ボクは戦うぞっ!」
今の会話がリラの疲れをふっとばしたらしい。再びリラはギンザに立ち向かっていった。
そしてまた繰り返される無意味な戦い…。
「…あれ?」
「失敗みたいね。」
残された二人。また見守らないといけないらしい。なんて面倒なのだ。
二人はどうしようもなく、勇者の戦いを見守り続けた。
* * * * *
「………!」
ベッドの上、ばっとリラが起き上がった。何が何だか分からず、とりあえず辺りを見回す。
ここは…今泊まっている宿屋ではないか。窓の外は真っ暗だ。
あれ…ボクは…?頭がぼーっとしていて、何も記憶がない。
考え込んでいると、ドアの外から人の声が聞こえてきた。
「おいしかったね〜満足満足(o^o^o)」
すごくゆるい声だ…リラの顔が険しくなり、ドアが開いた。
瞬間、目が合う。
でもリラはどっちかというと青い鼻を見ていた。
「……リラちゃぁん(≧▽≦)!」
青い鼻がまっすぐリラにむかってきた。何も言わずに手を握る青い鼻。
「よかった〜目が覚めたんだね☆いきなり倒れちゃうから心配したんだよぉ〜(;o;)」
何が何だかよくわからず、リラは返答に困った。
すると再びドアから人が入ってきた。サラとレイだ。
「あ、リラ〜。よかった、起きたんだ。」
「おう!おまえいきなり倒れたんだぜ?覚えてるか?」
倒れた…?
まだ頭はぼーっとしている。
よく見たらこの青い鼻はギンザではないか。
いつもはおしりをさわっているくせに、なぜか手を握っている。
おしりはイヤだが別に手はイヤではない。
だいぶ意識を取り戻してきたリラは、仲間たちに尋ねた。
「何が…あったんだ?」
ゆっくりと説明をしてくれたのはサラだった。
レイの言葉で再びギンザに立ち向かっていったリラは、さすがに限界を感じてきたらしい。
数時間戦った後、急に倒れてしまったのだ。
そしてギンザが驚き、泣きながら宿屋に運んだのだ。
「…わかった?」
「うん…。」
あぁそうか、ボクは負けたのか…。リラはふっとため息をついた。
くやしかった。体力が足りず倒れてしまうなんて…。
瞬間、大粒の涙がリラの目からこぼれ落ちた。
「…リラちゃん(@o@)!」
あまりに突然の出来事に、ギンザはあわてふためいた。
怒るリラはいつも見ていたが、泣いているのを見るのは初めてだった。
声を殺して涙を落とすリラ。
「リラちゃん、ごめんね、ごめんね…(;_;)」
手を握り続けるギンザ。
少し丸っこい指。いつもはしりを触られているだけなのでわからなかったが、
彼の手は温かかった。
人のぬくもり。やさしいぬくもりだ。
「リラちゃん、ごめんね…ぼくがおしり触ってばっかりいるから…ごめんね…(T_T)」
その言葉に何か考えたのだろうか。リラは涙をぬぐい、きっとギンザをにらみつけた。
きょとんと首を傾げるギンザ。
「いいか…次の勝負では、絶対勝つからな…!」
手を振り払い、力強く彼女はそう言った。
その言葉を聞き、みるみるとギンザの顔が明るくなってゆく。
「……リラちゃぁん(≧▽≦)!!」
満面の笑みでリラを抱きしめる。あつい抱擁だ。
リラは突然の出来事に一瞬ためらったが、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「…何すんだぁぁぁ!!!」
暴れ狂う勇者。楽しそうに逃げる遊び人。
いつもの風景が戻ってきた。
この様子を見ていて、嬉しそうな僧侶と、何ともいえない顔をした武闘家。
「なぁサラ…。」
「ん?」
「これで…いいのか?」
「いいんじゃない?」
「…そうだな。ま、いいか。」
そう、これでいいのだ。楽しければいいじゃないか。
長い長い旅の間、二人のやりとりは永遠に続いていくことであろう。
☆余談☆
「ねぇギンザ、何でリラのおしりは触るのに、私のおしりは触らないの?」
食事中。リラをベッドにひとり残し、レイがトイレに立ったとき、
ふとサラは疑問を感じ尋ねた。
「え?サラちゃんも触ってほしいの(・・)?」
"も"という表現は置いておいて…。
「いや、そういうわけじゃないけど…やっぱりリラはお気に入りだから?」
少し考えた後、ギンザはレイがトイレから出てきていないのを確かめ、
こっそりサラに耳打ちをした。
「だってレイくんが変に思ったらイヤでしょ(^o’)☆」
ぶはっ
オレンジジュースが飛び散った。
「ギギギギ…ギンざぁぁ!?」
顔を真っ赤にして慌てふためくサラ。
「レイくん鈍そうだし、しっかりね、サラちゃんd('-^o)☆」
「〜〜!」
そのとき、トイレのドアが開きレイがテーブルに戻ってきた。
とてもすっきりした顔をしている。
だが同席している仲間の顔はイマイチすっきりしていない。
「どうしたサラ、トイレなら今空いてるぞ。」
「ち、ちがうよっ!!」
遊び人ギンザ。
彼には底知れない力があるようだ。
人は彼をこう呼ぶ。「鉄人」と。 |