はやぶさの男 (三人)

のろい。

そう気がついたのは、出会ってすぐのことだった。
あいつはのろい。動きがのろい。話がのろい。反応がのろい。のろいのろい呪い!

「なんでおまえはそんなにのろいんだっ!!?」
ある日、ローレアがぶちきれた。サマルトがきょとんとした顔でこちらを見ている。 そして少し考えた後、
「のろい?」
と首をひねりながらローレアに聞き返した。質問返しだ。
「ああのろいんだよっ!なんでのろいんだっ!?」
「……のろいかな〜…。ねぇムーン、ぼくってのろい?」
サマルトがとなりにいる紫髪の少女に尋ねた。だまってうなずいている。
「そうかな〜……あ、そうそう。ねえローレア、この間行った町でさぁ…え〜っと なんて町だっけ?」
一生懸命町の名前を思い出そうとしているサマルト。……思い出すまでが長い。
「おいサマル」
「あっ!そうそうルプガナでさぁ〜……」
言葉が止まった。
「なんだっけ?」
「ふざっけんなぁぁぁ!!!」
ローレアの鉄拳がサマルトの顔面に直撃した。サマルトは噴水のように美しく鼻血を出した。

* * * * *

「さーて、新しい町だぞー。っつーか村だぞー。」
ローレアが村の入口で元気よく言った。
ここはテパ。水門と羽衣づくりの名人がいることで有名な村だ。

「あー疲れたっ。ねえローレア、今日はここで休むんでしょ?」
ムーンがくたびれた顔で尋ねると、ローレアは笑顔で答えた。
「よっしゃ!武器屋いこうぜ、武器防具屋!」
全然聞いちゃいない。ローレアは新しい武器や防具を見ると胸がわくわくするのだという。 この間もルプガナで、初めて見る身かわしの服に目を輝かせていた。
ムーンは一つ小さなため息をついた。
「ガキ…。」

店に到着。ローレアは喜んで中に入っていった。
サマルトは特に興味はないらしく、ずっと笑顔のまま黙っている。ムーンも興味なさそうに あくびを一つ。自分に合いそうなものは置いていない。非力なムーンには、使える武器防具が 少ないのだ。
「へえ〜見ろよ、魔法のよろいだってよ。俺も魔法使えるようになるかなー。」
そんなことはない。
「お!力の盾じゃん!いいなーこれほしかったんだよなぁー。でもやっぱたっかいよなぁー。」
店の親父はにこにこがおである。人里離れた村だ。旅人もめったに来ない。こんなに熱心に 見てくれる客がうれしいのだ。
と、ローレアが一つ、ある武器に目を留めた。鳥の細工をかたどった、細身の剣。 "はやぶさの剣"と書かれてある。じっとそれを見つめていると、親父が声をかけてきた。
「もってみるかい?」
「え!いいんすか!」
「ああ、どうぞ。」
「やり〜。」
ローレアはその剣をそっとつかみ、もちあげた。
「………!」
「どうしたの、ローレア。」
ローレアの驚嘆の顔に気づいたムーンは、不思議そうに尋ねた。
「これ…すっげえ軽い…なんか、体も軽く……。なんだこれ!すっげえ!!」
剣を振り回すローレア。危ないヤツだ。
「すごい武器だろう。それを装備するとな、体が鳥みたいに軽くなるんだ。」
親父は優しい目でローレアを見ながら、ゆっくりと説明してくれた。
「軽いから攻撃回数も増えるんだ。まあそのぶん攻撃力は低いけどな。」
ローレアは感心したようにうなずき、そしてなにかに気づいたらしく、元気よく叫んだ。
「おっちゃん!これください!!」
なにより驚いたのはムーンだった。
「ちょっ…ローレア!アンタそんな高い武器…」
「あ、その鞘にしてくれ。そこの細工がかっこいいからな。」
聞こえていない。こうなってしまったらもう手がつけられない。
「ローレアぁー!」
値札に書かれた数字、25000。"0"が一つ多い。
ロトの子孫たちは一気に破産してしまった。

* * * * *

新しい武器を手に入れて、ローレアはごきげんに村のすみに走っていった。 笑顔で続くサマルトと、ため息をつきながら続くムーン。
「よぉーっし。それでは今から『サマルトくんはやぶさの剣で速いぜイエーイプロジェクト』を とり行う!」
「はあ?」
ムーンの顔がくずれた。
「あっはははは〜。なにそれ、変なプロジェクト〜。」
サマルトにはうけている。おもしろかったらしい。

「俺は思う!サマルトはのろい。すごぉーくのろい!のろくてたまらない! そののろさを克服するには素早くなるのが一番だ!」
「なんかわかるようでわからないんだけど。」
「そんなにのろいかな〜ぼく。」
「ああ亀のように!いや、なめくじのように!いやいや、カボチャのようにのろい!!」
「カボチャって何?」
ムーンはローレアの言葉ひとつひとつに疑問がいっぱいだ。

「じゃあもってみろ、サマルト。」
「うん。」
はやぶさの剣はもっているのを感じさせないほど軽かった。鳥の羽のように、 空気のように軽かった。
「へぇぇぇぇ〜。」
「なっなっ、すっげえだろ!」
「うん、軽い〜。」
男二人の会話を聞いていて、ムーンもその軽さを実感したくなってきた。
「ねえ、私にも持たせてよ。」
「な〜に言ってんだよ。ムーン剣使えないじゃん。」
「いいから持ってみたいのっ。」
ムーンはサマルトから剣をうばった。本当に軽い。
「すっごい!ホントに体が軽くなるんだ!」
「言っとくけど、別に体重は減ってないんだからな。」
ぼこ!
ローレアの頭にムーンの杖が直撃した。ローレアはいつも一言多い。

さて、こうして「サマルトくんはやぶさの剣で速いぜイエーイプロジェクト」が始まった。 略称は「サマジェクト」。もちろんそれを決めたのはローレアである。
とりあえず今からローレア相手に剣の練習だ。ローレアは背中からはがねの剣を抜き、かまえた。 サマルトはぽけっとその様子を見ている。
「ほら、おまえもかまえろよ!」
「え?あ、うん。」
サマルトもおニューの剣をかまえる。小柄なためか、細身の剣がよく似合っている。
二人の間を静かに風が通り抜け、一枚の葉がふわりと浮かんだ。
そのとき、ローレアが飛び出した。速い。丹精に研がれた剣は、そのままサマルトに向かって 振り下ろされた。
いつもの彼ならかわせなかっただろう。でも今日は違う。彼の手にあるのははやぶさの剣。 主の身を鳥に変え、守り、攻める。
はがねを受け止め、はやぶさが飛んだ。一回、二回。はがねが一回振り下ろされる間に、 はやぶさは二回宙を舞う。
「うわぁぁ、ぼくすごいよぉ。」
サマルトがまぬけな声を上げた。
「戦いの最中は黙ってろよ!」
はがねの剣が横にすべるように振られた。

ムーンは二人の男の戦いをじっと見つめていた。
まるで一人の女をめぐって戦う男タチのようだわ、などと夢を見ながら。
「これで前にいる男性がすてきな王子様とかだったらもっとすてきなのに…。」
ローレシアにはアホな王子が。サマルトリアにはのろまな王子がいるという。

「とった!」
ローレアの剣がサマルトの剣をはじいた。はやぶさの剣はくるくると空をまわり、 そのまま草っぱらの広がった地面に落ちていった。
「あ〜あ…。」
残念そうにサマルトは両手をあげた。降参のポーズである。
「やっぱ強いな〜ローレア。」
「いや、サマルトも速くてよかったぞ!」
アツく語るローレアの横に、ムーンが入ってきた。
「ホントホント。これでもう苦労しないですむね。」
笑顔のムーンにサマルトは笑顔を返した。
とりあえず今日は、宿をとって寝ることにしよう。

そして、夜が明けた。(BGMつきで)

「よっしゃあ!!サマジェクトの成果をみせるときが来たぞぉ!」
一番早く起きたのはローレアだ。普段はねぼすけなくせに、なにか行事などがある時は やたら早起きになるのは、子ども時代の運動会や遠足を思い起こさせる。
「う〜…なにぃ…まだ暗いじゃナイのよぉ…。」
ムーンが寝ぼけ眼で答えた。確かに暗い。いつもだったらまだ夢の中にいる時間だ。
「何言ってんだよっ!朝だぜ朝〜。いいなあ、さわやかな空気だー。」
すでにばっちり着替えているローレアは声を高らかにしながら窓を開けた。冷たい風が入り込んできた。
「ひゃああっ…。」
ムーンはあわてて布団をかぶった。寒い。なんでこの男は平気なんだ。
「よーしサマルト、体操でもしようぜ。新しい朝だぞ!」
「んあ…んん…ねむいよぅ……。」
「うるさいだまれ!いくぞホラ!!」
「ううう〜」
髪の毛ぐしゃぐしゃの寝起きスタイルのまま、サマルトは外に連れて行かれてしまった。 ムーンは布団の中から少し顔を出して二人を見送った。……つかれる…。
窓の外からローレアの声が聞こえてきた。いちに、さんし、ごぉろくしちはち…。

さて体操も終わり、サマジェクト実行のため一行は村の外へ出た。
昨日はローレアでの予行練習だった。
今日はモンスターとの実演である。
戦うのはサマルトなのに、一番楽しそうにしているのはローレアである。行事好きな男だから。
「ねえ、ほんとに大丈夫なんでしょうね?」
不安な表情でムーンはローレアに尋ねた。
「?なにがだよ。」
「サマルトよ!たしかに昨日はなんか速かったけど、でもやっぱりサマルトだし…。」
理屈になっていないが、よくわかる。
「大丈夫だって!なあサマルト!…サマルト〜…。」
ローレアが振り返ると、そこにはいたはずのマヌケ王子がいなくなっていた。おかしい。 どこへ消えたのだろう。
「うお〜い、サマルト〜。」
「サマルトー。」
二人で呼んでも返事はない。どこへ行ったのだマヌケ王子。

「おお〜い二人ともぉ〜。」
向こうからマヌケな声がしてきた。サマルトだ。
「なにやってんだよおま…」
「モンスター連れてきたよぉ〜。」
「!!!」
サマルトは笑顔だった。しかし笑顔の後ろはとんでもなかった。
パペットマンに首かりぞく、ヒババンゴにブラッドハンド…!おびただしい数の モンスターたちが、いきりたってサマルトを追いかけているのだ。一体彼は何をやったのだろう。
「何やってんだおまえはぁーー!!!」
ローレアが取り乱した。
いくらなんでも多すぎる。こんなに多かったら剣なんて使えない。
たくさんのモンスターと出会ったときの対処法といったら──
「バギ!!」
魔法である。ムーンは走ってくるモンスターの群に向かって、思いっきり真空呪文を ぶちかました。
「ってえ!おいムーン!サマルトのこと忘れてねぇかっ!?」
モンスターの前を走ってきていたサマルト。モンスターに向かって魔法…ということは、 もちろんその前にいたサマルトにも被害が出てしまうと考えておかしくない。
「大丈夫よ、ホラ。」
サマルトはよけていた。そう、彼ははやぶさの剣を装備しているのだ。はやぶさの剣は 攻撃だけでなく、防御にも十分役立っていた。すごい、すごいぞ、はやぶさの剣。
「ベギラマ〜!!」
よけた体勢のままサマルトは呪文を解き放った。ベギラマ──この間サマルトがおぼえた 最強の閃光系呪文である。
「うがああー!!!」
バギの上にベギラマまで食らってしまったモンスターたちは、そのまま倒れ込むか 逃げるかの選択しかなかった。戦いは彼らの勝利に終わった。

「……はやぶさの剣使ってねぇじゃん!!」
ローレアが気づき叫んだ。
「私のバギよけたじゃない。」
「そうだよ〜。ぼくあんなにうまくよけたの初めてだよ〜。」
「アホ野郎!剣なんだぞ!よけるのに使ってどーすんだよ!!」
たしかにこれでは身かわしの服と変わりがない。攻撃は最大の防御という言葉が活用されない。
するとサマルトはぷーっと頬をふくらませてローレアに抗議した。
「そんなこと言われてもさぁ〜、この剣ぜんっぜん斬れないんだよ〜。」
はやぶさの剣をぶんぶんと振り回す。ローレアの顔に困惑の表情がうまれた。
「…きれない?」
「うん。さっきのモンスター達と戦ってみようと思ったらね〜」
「……きれなかった…?」
「そうなんだぁ。ダメだよこの剣。みてよ、もうボロボロだし。」
ローレアは目を凝らしてそれを見た。刃のところが使い物にならなくなっている。

そういえば…武器屋の親父は言っていた。
『軽いから攻撃回数も増えるんだ。まあそのぶん攻撃力は低いけどな。』
低い。低すぎる。いや、低いどころではない。攻撃力が、ない。
「……うおぉ───!!!」
ローレアはほえた。このプロジェクトの最大の目的は、サマルトを速くすることである。 しかしいくら速くても、戦えなければ意味がない。魔法戦士のサマルトに、呪文だけで 戦わせつづけるのは難しい。剣と呪文、両方があってこその魔法戦士なのだから。

「おい!この剣返しに行くぞ!!」
「何いってんの。そんなに刃こぼれしてんのに、受け取ってもらえるわけないでしょ。」
「んじゃどーすんだよこの剣!」
「いいじゃないの、速くなれるんだし。」
「この剣じゃ勝てねーよ!」
ムーンは少し考えてから、
「それじゃあさ、攻撃用の剣とはやぶさの剣、って二本もつなんてどう?」
と、嘆くローレアにふざけてそんなことを言ってみた。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、ローレアの動きが止まった。
「……そうか…二刀流か…!」
ローレアの顔が輝いていく。ムーンはまずいことを言ってしまったかもしれない。 ローレアが輝く顔をしたとき、何か不吉なことが起こるのだ。

「サマルト!この前まで使ってた剣、貸せ!!」
「え?いいけど〜…。」
サマルトは背中から鉄の槍を取り出した。
「これとはやぶさの剣、二刀流できるようになれ!!」
「ふあ?」
まぬけな声。ムーンはげげっという顔で固まった。
こんなに長い槍と二刀流なんて無理がある。いや、普通に無理だ。
「ちょ…そんなの無理に決まってんでしょ!いいじゃないの、身かわしの服でも着とけば!」
「ダメだ!せっかく買った魔法の鎧がムダになるだろ!」
魔法の鎧は4300ゴールド。はやぶさの剣なんかよりはずっと安いが…。
「よっしゃあー!サマルト!特訓だぁっ!!!」
ローレアはもうすでに燃えていた。誰も止めることはできなかった。

かくして、「サマルトくんはやぶさの剣で速いぜイエーイプロジェクト」は失敗に終わり、 代わりに「サマルトくんはやぶさの剣を使いながらも槍で攻撃しちゃうなんてすごすぎるぜ やっほうイエーイプロジェクト」が始まった。
その結果どうなったのかはわからないが…。

たぶん失敗に終わっただろう。だって彼はサマルトなのだから。


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