広い空の下。流れる雲はほのぼのと、映える山は青々と。
もう夏だとだれもが実感するそんな季節。
そんなさわやかな中、草葉の陰からうーんうーんとうなり声が聴こえる。
「うーん…どうしようか…。」
うなっているのは彼、盗賊のカインである。
とある村で勇者一行と出会って二ヶ月と十八日、彼もすっかり仲間の一員となっていた。
「三人のうちだれかだよなぁ…。」
カインの仲間は、まず若干十六歳で勇者という運命を背負い、元気よく旅をし続ける我らが
リーダーのリラ。それからみんなの母親のような存在である、賢者のアイリス。三人目はカインの
ケンカ仲間、商人のアキナ。最後は、頼りになるきれものおじさん、僧侶のゲンジである。
おちょうしもののカインはすぐに仲間とうち解けることができた。
「でもおれが渡さなきゃなんないんだよなぁ…。」
女三人、男二人の五人パーティー。そのうち一人、ゲンジはすでに既婚者である。里には
かわいい一人娘がいるらしい。
「あああ…もう困るよなぁ〜。」
何だろう。とにかくカインは悩んでいるようである。
「さっきから何をうなっておるのだ。」
「どぅわちゃあっ!!」
突然声をかけられて、カインは驚いて奇声を上げた。
声をかけてきたのは男仲間のゲンジであった。なぜが手に針と糸を持っている。
「なんだよ、いきなりよぉ〜。」
「こんな草むらでうなっている男がいたら、誰でも気になるに決まっているだろう。」
「なによゲンジ、オレのこと好きなのー?」
カインはいやらしそうに笑いながら白い歯をみせた。
「好きか嫌いかといわれれば好きだが。」
ゲンジは手に針を持ったまま真顔で答えた。針の先がきらりんと光る。
「い、いやいいよ何かこわいっ。」
ゲンジはいつだって真面目冷静沈着無表情である。
「とにかく、一体おまえは何をうなっているんだ?」
糸の通った針を針山にさし、そのままポケットにしまい込んでゲンジはカインに尋ねた。
ゲンジはこう見えても仲間思いのいいヤツである。うなっている仲間をそのまま放っておくことは
できないのだ。
「ん〜…いやあ、実はこの間キングマーマンからこんなモン盗んじまってさぁ…。」
カインはごそごそとカバンから何かを取り出した。黄色い布と細かなビーズで成り立っている…
「魔法のビキニだな。」
さらりというゲンジに、カインは口をとがらせながら言った。
「…困ってるんだよ。」
「なにがだ?」
「だから…誰に渡したらいいのか。」
「リラに渡せばいいのではないか?」
リラはリーダーである。
「いやっ、だってもしリラに渡したりしたらさ…」
●カイン談『リラに渡した場合』●
「リラ、これやるよ。」
「ん?なんだこれ。」
さつばつとカインからの贈り物を受け取るリラ。それは小さく折りたたまれた黄色い布っきれ。
リラは頭の上に「?」をかかげ布を開く。
そしてその正体を見た瞬間、言葉を失う。
──見るからにセクシーポイントの上がる露出度いっぱいのビキニ──
リラは顔を真っ赤にして怒りだす。
「なっなんだよこれっ!こんなのボクに着ろっていうの!?」
男の子のように育てられたリラの第一人称はボク。
「いや…だってリラがリーダーだから…。」
「ふざけるなよカイン!オンナノコにそういう格好させたがる男なんて、男じゃない!!」
「いやだから、女三人で…。」
「どうせまた盗んできたんだな!こんなの持って帰れ!」
聞く耳持たずにリラはビキニをカインに投げつける。
そしてリラからカインへの評価値はとことん下がり、そのままカインは夕日の向こうに
消えていく……。
「なっ、なっ!なんかすっげぇいやだろ!?」
「うむ、夕日の向こうに消えていくのだな。」
そこが一番印象深かったらしい。
ゲンジは次の提案を出した。
「ではアイリスに渡してはどうだ?」
「ん〜…アイリスも、なんかこうさ〜…」
●カイン談『アイリスに渡した場合』●
「ようアイリスっ。」
「あらカイン、ごきげんよう…。」
編み棒をもってなにかよくわからないものを制作中のアイリス。奇妙なオブジェが手の中にある。
だがカインはそんなものには目もくれず( 実はちょっとくれていたりしながら )アイリスに
あるモノを手渡す。
「あのさ〜、これやるよ。さっき盗んだんだ。」
「あらあら…なにかしら。ごそごそ。」
擬音効果を自分で言うアイリス。彼女の手に黄色い小さなビキニが広がる。
「……カカカ、カインさん…?」
「いやっ、別にアイリスに着てほしいってわけじゃないんだけどさー。」
「………。」
「なんていうかさ、女たちで話し合いでもしてそれの所有者を…」
「いやあああああ!!!」
ビキニを投げ捨て、泣きながら走り去るアイリス。彼女は箱入り娘だ。
こんなプレゼントをされては、はずかしいったらありゃしなかった。
カインは一人、夕日の映る海を見つめていた……。
「あああ…なんかオレのイメージがくずれていく…。」
「今度は海辺の話か。」
海辺の夕日を想像してよい気分になるゲンジ。
そしてそんな余韻を残しながら再び次の提案を出した。
「ではアキナだな。」
「なっ!おまえ、アキナなんかに渡したりしたら…」
●カイン談『アキナに渡した場合』●
「お〜っすアキナ。マヌケな顔してどうしたのー。」
「マヌケとは何よマヌケとはっ。」
マヌケと言われ怒るアキナ。たしかに間の抜けた顔をしていた。
「えっとさぁ…これやるよ。」
「え、な、何?」
カインからモノをもらうなんて、はじめてのアキナ。
少しドキドキしたりしながらその贈り物を受け取る。
黄色い布きれ。一体何なのか。気になるアキナはそっとそれを開く。
「……えと…これは…。」
「魔法のビキニだよ。ほら、守備力も上がるし、せっかくだから…。」
アキナの色白な顔が真っ赤になっていく。
「あ、あたしに着ろっての!?」
真っ赤な顔で口をパクパクさせるアキナ。
「こんなっ黄色くてかわいいビキニをっビキニをっ!」
「いやいや、女三人で決めてくれ。」
その一言にアキナの口は止まる。
「……。」
初めての贈り物をもらって、しかもそれがセクシービキニで、
ちょっと恥ずかしながらも嬉しくなってしまったアキナの心は、何だかどーしよーもなく悲しい気持ちと
さっきとは違う恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった。
「何よっ他のコに着てほしいなら最初からあたしにくれないでよ!」
「べ、別に他のコにとか…いやそりゃアキナの水着姿なんてオレ見たかないけどー。」
ちょっぴり見たいという内心とは裏腹に、カインの口からは失礼な言葉が出る。
そしてその失礼な言葉を聞いたアキナは、さらに顔を真っ赤にして、
何も言わずにカインに水着を力一杯投げつけ、そのまま走り去る。
「…しまった…。」とりかえしのつかない思いがカインの心に宿る。
昇る朝日が、カイン一人の長い影をつくっていった……。
「やっ、やべえ!ケンカもできねえじゃねえか!!」
「今度は朝日なのか…。」
夕日のほうがお気に入りだったらしい。少しがっかりするゲンジ。
「ああも〜いったいどうすりゃいいんだよ、これっ。」
カインは頭を抱え込んだ。さすがに捨てるわけにはいかない。いくらなんでももったいない。
かといって、売ってしまうのもなんだかくやしい。
「だあもう!だいたいビキニなんてのがいけないんだよな!なんでキングマーマンの野郎
こんなもん大事にもってんだよっ!変態じゃん!?」
悩み果てたカインはキングマーマンにすべての怒りを向けた。盗んでおいて勝手な話だ。
と、急に後ろから声をかけられた。
「どーしたの、アンタ。」
「ひゃあぁ!!」
目の前にはアキナが立っていた。そしてその横に並んでリラ、アイリス。
「き、聞いてたのか?いっいやらしいなー。」
「聞いてないっつーの。なんの話してたのよ。」
口を尖らせてアキナは尋ねた。
なんだ聞いてなかったのか…とほっとするカイン。しかし手にはしっかりと──
「あれ、なにその黄色いの。」
(げげっ!)
ビキニが握られていた。めざとくアキナはそれを見つけ、そしてすっと奪い取った。
盗賊からすっと奪うとは、なかなか手癖の悪い商人だ。
「!かっ返せよなそれっ!」
「なによーあわてて。あ〜やし〜の〜。」
奪い返そうとするカインをひらりとかわして、アキナはカインをからかってやった。
いつもからかわれているのでその仕返しだ。
「なによこれー。」
アキナは黄色いくしゃくしゃになった布を開いた。かわいらしいビキニだった。
「………これっ…。」
女性陣三人が輪になってビキニを見つめた。終わった、オレのすてきな人望──カインは
そう覚悟した。ゲンジはだまって見守っている。ポケットから再び針山を出しながら。
「すっっごぉぉい!魔法のビキニじゃん!アンタこれどうしたの!?」
「えっ…?」
意外な反応にカインが一番驚いた。
「これ珍しいのよねー。お店にもなかなか入んないのよ。」
ハッと気づいた。そういえばアキナは商人だ。こんな防具を見たらまず最初にこういう感想が
来るのは当然のことじゃないか…と。
アキナにのせられて、リラとアイリスも目を輝かせている。
あぁ、上がっていくオレの人望…ありがとうアキナ、ありがとう…。
オレもうアキナのことからかわないよ。うん、からかわない。
それはたぶん嘘だが、カインはアキナに精一杯の感謝の気持ちを捧げた。心の中で。
「でも着るのはできないわねー。ちょっとでかすぎか。」
「ホントだな。L …ううん L L 、いや、X L …それ以上かな?」
「うふふ、りっぱなモノね。」
はい?とカインは眉をひそめた。女たちが広げている魔法のビキニ。
そういえば…でかい。異常なまでにでかい。なんだそのでかさは。大人二人くらい
入れそうなでかさだ。……でかい。
そこでカインは気づいた。これを盗んだのはキングマーマンから。キングマーマン……………
もしかして、自分サイズ…?
カインはがっくりと肩を落とした。ちょっと……残念である。
「私が直してやろう。」
ゲンジが糸を針に通しながら言った。
「いいわよーゲンジ下手そうだもん。売っちゃお売っちゃお♪」
「よーし道具やへゴーだ!」
「うふふ、高く売れるといいわね。」
かくして魔法のビキニは道具屋行きとなり、勇者一行の手に3750Gが手に入った。
その3750Gは、世のため人のために使われたということである。
「今度はちゃんとしたサイズのを盗もう…。」
暮れゆく夕日に、カインは心からそう誓った。 |