ドラクエ2 〜夕日をあびて〜


サマルトリアの南、ローラの門へと向かう途中の大草原。
夕暮れ時のこの時刻は、真っ赤な夕日に照らされて、あたり一面真っ赤な草原がさざめいていた。

「…今日は、疲れたね〜」
野宿の場所を決め、集めた焚き木に火をつけて、ようやく一息ついた時。
サマルトリアの王子はのんびりした口調でのほほん、とのたまった。

お互い、今日出会ったばかりの、初めての仲間である。

ローレシアの王子は目の前ののほほん顔を思いっきりつねりあげたい衝動を必死で押さえていた。
「ああ、…働いてんのは俺1人だけどな…」
「………」
少し、間があった。
「ええ〜っ!?そんなこと、ないよ〜。ぼくだって、ほら、『ホイミ』いっぱい使ったし さぁ〜っ」
サマルトリアの王子は不服そうに口を尖らせる。
「……んじゃ、これ。これ治してくれ」
ローレシアの王子は、サマルトリアの王子の目の前に、右腕を突き出し、袖を捲り上げた。
パックリ、と斜めに切り傷。
戦闘の最中、『ゆうれい』のカマに切り裂かれたのだ。
「わ、痛そう〜」
「…いてぇよ」
「…」
また少し、間があく。
サマルトリアの王子はぼんやりと傷を眺めている。
――いい加減にしろよ、とローレシアの王子は頭の中でつぶやいて、とうとう怒鳴り始めた。
「…ボケッとしてねぇで早く治せっての!!」
「わあ、ごめん、痛そうだな〜と思って…」
「だから痛いって言ってんだろうがこのボケが!!」
「うん。ああ、でも、ごめん、ああ明日でいい???」
「ああ!?」
「ぼく、今日はもうMP尽きちゃったんだよ〜」
サマルトリアの王子は少し体を遠ざけて、涙目になって言う。
ローレシアの王子は呆れすぎて切れた。
「このぉ…っ役立たずっ!!!
今日一日の間に、何度も何度も思っていたが、初対面ということで一応遠慮していた。
しかしとうとう口に出して言ってしまった。

サマルトリアの王子は思いっきり青ざめた顔で固まって、それからガックリ肩を落とした。
「うう…ごめん」

確かに、サマルトリアの王子はハッキリ言ってあまり役に立っていなかった。
…それどころかローレシアの王子の足手まといの感がある。
戦闘の最中も、ほとんど戦ってるのはローレシアの王子1人。サマルトリアの王子は回復に 回っているのだが…ほとんど自分自身の回復なのだ。

「…ふんっ」
ローレシアの王子は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「……」
サマルトリアの王子は余程ショックだったのか、ガックリと肩を落としたまま泣きそうな顔をして うつむいている。
「……」
さすがに、酷く悪い事をしてしまった気がして、ローレシアの王子は少しだけ後悔した。
それで、がしがしと頭を掻いて、サマルトリアの王子に声をかけた。
「…おい!まぁ、アレだ、明日頼むわ、治療…。……もう薬草もねぇしよ、お前の呪文だけが頼り だからな」
二ッと笑って言ってやる。
サマルトリアの王子はパァッと顔を輝かせた。
「う、うん、頑張るよ、ぼく!!」
――ゲンキンな奴。
でも、ハーゴン討伐なんて無謀な事やらかそうとするなら、これくらいのんきな方が良いのかも しれない。
ローレシアの王子は1人で納得してうんうん、と頷いた。
 

「…暗くなって来たね〜」
サマルトリアの王子は上を見上げて言った。星がいくつか輝いている。
「そうだな」
「ぼく、星って好きなんだ〜」
「さっきは雲が好きだって言ってなかったか?」
「え?うん。雲も好き〜、…じゃ、空が好きなのかな〜」
にこにこ笑ってそう言った。
「空ねぇ…」
ぼんやりと、藍と赤の混ざった空をみあげる。
せっかちな性格のローレシアの王子は、空を見るなどということは滅多に無かった。

「ねぇ。この前さ…、南の空が真っ赤な日があったんだよ。知ってる…?」
ふ、と声のトーンを落として、サマルトリアの王子は言った。
口調は相変わらずのんびりしている。
「あ?夕方だったからじゃねぇのか?」
「違うよ。真っ昼間だよ。…南の空がさ、赤黒かったんだ…あれは、」
そこでサマルトリアの王子は言葉をきった。
ローレシアの王子もハッとする。
――ムーンブルクが。
「……うん。あの時、ムーンブルクは陥落したと思うんだ…もしそうなら、城だけじゃないよ。 あのあたり一帯凄いことになってると思う。だって、こんなに遠いサマルトリアから見えたん だからね…」
サマルトリアの王子は悲しそうに目を伏せた。

まだ会ったこともない王女の事を考える。
自分達と同い年くらいのはずの、それは美しいという評判の王女。
彼女は生きているのだろうか…?

サマルトリアの王子も同じ事を考えていた。
「ムーンブルクの王女は、生きてるといいね…。もし生きてたら、ぼく達、きっと王女を救って あげよう」
「そうだな」
もし、生きていたら。
その時は、きっと悲しんでいるはずだから、一緒に王女を助けてやろう。
「…生きてるといいな…」
ローレシアの王子はぼそり、と呟いた。

すると一瞬だけ意外そうに、サマルトリアの王子が見つめた。
「あれ、珍しいね。キミがそんなにしんみりするなんて」
にこにこ笑ってサマルトリアの王子は言う。
「あはは、良かった〜。ぼく、キミのことただの怖い人なのかと思ってたよ〜」
…余計な一言だった。
ローレシアの王子の顔が引きつる。
「ふざけんなこのおとぼけ野郎!誰のせいでしんみりしてんだよ!!」
「わあ、ご、ごめん!」
「くだらねぇこと言ってねぇで、早く寝てMP回復しやがれっ!!」
「わ、分かったよ、もう寝るよ〜」
慌てふためいてサマルトリアの王子は草原に横になった。
「ふんっ」
ローレシアの王子は後ろの木の幹に寄りかかった。

少しして。
サマルトリアの王子は首だけ上げて尋ねた。
「あれ?ね、ねぇ、キミは寝ないの…?」
「おとぼけの上にバカかお前は!2人とも寝たらモンスターの格好の餌食だろうが!俺が見張ってて やるから寝ろって言ってんだよ!」

サマルトリアの王子はびっくりして目をぱちくりさせている。
「じゃ、じゃあぼく、後で、見張りするから…起こしてね」
「…当然だろ、早く寝ろっ」
一日中怒鳴ってばかりでローレシアの王子は疲れてしまった。
サマルトリアの王子も一日中怒鳴られ続けてかなりへこんでいる。
「うう…ごめん。寝るよ…」

それから。
サマルトリアの王子が目を覚ましたのは、朝日が草原を照らし始めた頃だった。
大慌てて飛び起きて、ローレシアの王子を見る。
「…よう」
ローレシアの王子は木の幹に寄りかかったままだった。
…寝ていなかったのである。
「ご、ごめんっ!ぼく、起こされても起きなかった!?!」
サマルトリアの王子は冷や汗をかいて言った。

「起こしてねぇよ」
「え?え?」
「俺は体力余ってるから良いんだよっ。どうせ後1日も歩けばローラの門につく。そしたら少しは 休めるだろ。」
「でででも…っ」
困惑するサマルトリアの王子に構わず、ローレシアの王子は腕をまくって、差し出した。
「いいから、これ、治してくれ」
昨日の切り傷である。
「う、うん…」
サマルトリアの王子はためらいがちにその腕に手をかざした。
『ホイミッ』
唯一、サマルトリアの王子が得意な呪文。見る見るうちに腕の傷は治って、きれいさっぱり 無くなった。
「おお、やっぱすげぇな、呪文ってのは」
はっはっは、とローレシアの王子は笑った。

「そんじゃ、行こうぜっ」
さっさと歩き出すローレシアの王子の後に、慌ててサマルトリアの王子がついて行く。
…全然、怖い人なんかじゃないや、とサマルトリアの王子は考えたが、言うとまた怒られそうなので 言わないでおいた。
 

「おかしの冒険」で29999ヒット(ホントにありがとうございます)を
ふんだお祝いに、あいきょーさんからいただいた小説です。
「ローレシアの王子短編」をリクエストしたところ、
なんと私の「夕日をあびて」をモトにして 書いてくださいました!
もうにやけ顔がおさまりませんでした。
さりげなく優しいロレ王子…最高です♪
これからどんどん二人は仲良くなるんでしょうね(^^)
ムーンちゃんが仲間になる頃には親友でしょう。
あいきょーさんの話では、「おまえの前世、絶対ナマケモノだぜ」
というセリフを入れたかったけど話の都合で入れられなかったそうです。
たぶんこの話の見えないところで言ったんでしょうね♪

あいきょーさん、本当にありがとうございました!


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