ドラクエ5 〜空を見上げてみれば〜


大きな空と白い雲。
いつも私を見ている太陽。
私だけの太陽ってどこかにいないかな?

     ***

ビアンカはいつもの丘の上でふう、とため息をついた。
もうすぐ春が来る。
肌に当たる風はもう随分と柔らかくなってきていて、村を包んでいる空気は春の香りで一杯だし、 汚れたって構わない。と座り込んでいる丘の周りの木々は、その枝に瑞々しい命のつぼみを持って 咲く日を待っているようにさえ見える。

全てが、新しい季節の到来を待ち焦がれている。

輝く季節を。
美しい春を。

そして、ビアンカの村―山奥の村では、春に行われる収穫際の準備が行われている所で、 村人はうきうきとはずむその胸の内を隠そうともせずに忙しく村中を動き回っている。

「おうい、ビアンカ!さぼってないで、手伝いなさい!」

父のダンカンの声がし、ビアンカは振り向いて村を見下ろした。
彼女は見事な金髪の持ち主である。振り向きざまにその金色の髪が太陽の光を受けて零れさせた。

「なあに、お父さん?」

「なあにじゃないだろう、収穫祭の準備を手伝いなさい。ただでさえうちの村は人手が たりないんだからな。
珍しいじゃないか、お前が手伝いをさぼるなんて。」

ダンカンが丘の下方からそう声を上げて笑った。
彼は両腕いっぱいに果物の入った籠を抱えている。
ビアンカの青い瞳がふっと細まった。

「ん・……そうだね、ごめんなさい。でも、もうちょっとだけ休んでてもいいかな? もう少ししたら、必ず行くわ。」

後ろの方から、鳥が羽ばたいた音がした。
ダンカンは意外そうな、不思議そうな表情を浮かべて、籠を抱えなおす。

「構わないが・・…どうしたんだ?具合でも悪いのかい?」

「ううん、まさか!私は常に元気だもの。お父さんが一番良く知ってるでしょ? 大丈夫だから、先に行ってて。」

「…………ああ、わかった。できるだけ早くくるんだぞ。」

はい、とビアンカが言うのをしっかりと確認すると、ダンカンは最近とみに弱ってきている右足を 引きずりながら、ゆっくりと彼女の視界から遠ざかっていった。

ごめんね、お父さん、とビアンカはもう一度丘の上で姿勢を正して空を見上げなおした。

春が近いのに。もうすぐ暖かくなるのに。
わたしの心はなんだか寂しいの。

毎日お父さんのお手伝いをして、村の皆とゆっくり生きていく。
嫌じゃないよ。私はこの村が大好きだし、お父さんには私しかいないものね。

でも。
でも、何だか・……。

「はあ。」

ビアンカはそこでまたため息をつく。

空はいつだって私を包んでる。
白い雲はゆっくりゆっくり流れて行く。
ああ、あの太陽の様に、私を見守ってくれる人はいないかしら?

ずっと離れずに、私を見守ってくれる人。
そう、まさに空と太陽のように。

「…なんてね。私、どうかしてるかな。」

ビアンカはちょっと肩をすくめて、自分の頭を叩いた。
後ろの村の方からは皆の大変そうな声が聞えてくる。
和やかな村にふさわしからぬ黄色い悲鳴も、耳の中へと進入してきた。
どうやらまた温泉でイツァークおじいちゃんが何だかやらかしているらしい。
そろそろ行かなければ、とビアンカは大きく背伸びをして振り返った。

丘にはこの地方独特の白い桜草が咲き乱れている。
甘くて心地良い香りが鼻をくすぐった。

「踏み潰さないようにしなくっちゃ。」

ビアンカは誰に言うとも無く、自分自身にそう言い聞かせると、ゆっくりと足を踏み出した。
1歩1歩に神経を配って慎重に歩を進める。桜草は大好きな花だから、 傷付けるなんてとんでもない。

「ビアンカ!いい加減にしなさい!」

ダンカンが家のテラスから再び怒鳴った。

「今行くところなの!」

声を張り上げてそう言い返すと、ビアンカはもう面倒になって丘の残り半分の斜面を大胆にも 飛び降りた。
見事に着地し家へと向って走り出す。
やっぱりしばらくは、太陽なんていらないかもね。
とため息をつきながら。

ああ、そういえば、彼は元気なのかなあ?
真っ黒な髪と目の。
泣き虫で、頼りなくって、でも、すっごく優しかったあいつ。

また、会えるかな。
春になったら…・・…会えるかな。

暖かく薫る風。
優しい春風を体中に受けて走りながら、ビアンカはもう一度だけ、空を振り返った。
 

コウさんから、 相互リンク記念にいただきました♪
私のイラスト、「空を見上げてみれば」を元に変えてくださった、
心から愛するビアンカさまのおはなしです。
大丈夫だよビアンカ、キミだけの太陽はもうすぐやってくるから…
春になって、きっと会えましたよね(^^)
二人の心にも春がともって、ステキな太陽…。
ロマンにあふれたステキな作品です。
コウさん、ホントにありがとうございました!


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