詩と写真の世界




紫陽花

妻は
いろんな花を愛してる
わたしは
紫陽花が好き
それは
この花が
いちばん
妻のイメージに
合うからだ




雪白の道

さむいね
さむいね
かぜが
ばたばたあるね

こうさむいと
ふたりであるきたいね
どこへいくって
もくてきはあるさ

さむいね
さむいね
かぜが
かさかさあるね

こうさむいと
ふたりで
じゃんけんしよう
かってもまけても
ぼくのコート
きみのかたにかけよう

さむいね
さむいね
だからふたりでいよう
ふたりであるこう
雪白の道





虫の声

「帰らないで」
虫たちが言った
「いつまで」
と問うた
「秋が終るまで
もうすこしのあいだ」
虫たちがこたえた
「来年の春にあらためて」
わたしは歩きはじめた
虫たちはまた
か細い声で鳴きはじめた
「わたしたちに来年はないの
いちどきりの春
いちどきりの夏
いちどきりの秋」
ふり返らずに歩いた
広い草原だった
やがて一面に雪が降る
虫たちはただ無意味に
いまを
鳴いているのだ 




山の風景 せふり

山では
もう
つくつく法師が
ないていた

落葉を
唇に寄せると
あざ笑うかのように
森がゆれた

にわかに
山肌
ガスに覆われ
虚空
時を過っていった

注)せふり;福岡県と佐賀県の県境に位置する標高1055mの脊振山





夏のおわり

夏の
おわりの
おわりに
なくせみは
せみのなかでも
さいごの
さいごのせみ
ないても
ないても
仲間のせみは
やってこない
ひややかな
秋の風のなかで
そのせみは
きっと
あしたの朝には
死ぬのだろう





都 会

都会には空がない
というより
雲がない
真っ白でまぶしい
モクモクと
ソフトクリームのような
雲がない 




                                               山 へ

  山に登りたいなあ
                  毛布をリュックに詰め
  テントをかつぎ
  キャラバンシューズを履き
  朝露しめる
  草のかおりをかぎながら
  汗をたらたら流し
  太陽をまぶしく見つめ
  ああ
  山に登りたいなあ






わたしが死んでも
池の鯉は
あのように
素晴しい色彩をくねらせ
はすの花や
水草の茎のすきまを
ぬうように
泳ぐのであろうか




花 火

花火には

どこか

郷愁をよび醒ます

ふしぎなちからがある

天空に花咲く

大輪を見上げるとき

親と子のこころが

ひとつになる







夜明け

海の音をききながら
木の葉がいちまい
化石になった
こおるほど恋しい想いを
わたしはひそかに
浪間に沈める
 
とおく赤灯台に灯が入る
漁師たちは
いっせいに闇夜の漁に出る
 
おもえばあれは
ふしぎなひびき
 
微風は鼓動をおさえ
にわかに潮止りのとき
わたしのまえに
行方しれずのクロマニヨン人が
姿を現わす
わたしたちは会話しない
はるかにつながる祖先のいのち
向き合うことさえ意味はない
 
まるめた手のひらで
夜光虫をすくう
くるぶしにわずかなひかりが宿る
ひかりは海の喜びのようだ
 
わたしは
生れていたのだろうか
わたしは
幾つかのあぶくを視ていただけだ
わたしは
かすかに聞いていただけだ
 
海原に風がすべる
潮が動きはじめる
表現できない音にならない音が
たしかに伝わる
夜明けがちかい









ふたたび

およそ
30億年後とも
50億年後とも
胎内で水素を燃やし尽くした太陽は
水星を
金星を
地球をも呑み込むほどに膨らみ
やがて
爆発
消滅する

それは
宇宙の鼓動
数千億個きらめく星の
たったひとつの
些細なできごと

飛び散った塵やガス
宇宙を漂い
年齢のない無限の時間のうちに
ふたたび集まり
新たな星が生まれる

そうやって
いまの太陽も生まれたのだから
そうやって
惑星も生まれ
地球も生まれ

そうやって
わたしもまた
生まれるのだろうか








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